みんな孟嘗君の真似して「すでに至っていた」ことに気付くといいよ。

先日、なかなか珍しい体験をしたのでその話をします。
お渡しする紙のコラムにすこし書いている、わたし自身が「すでに至っていた」ことに気付いた時のエピソードです。人間って、目の前の壁とか境界線を越えて向こうに行きたいと思ってるとき、知らず知らずのうちに越してる、みたいなことあるんですよね~。

こんなことがありました。

先日、なんだか時間があいた日がありまして。夕方になってから「あ、独り呑みに行こう」と決めました。(ちなみに、独り呑みは、現在のわたしの重要な趣味であって。友人と飲みにいくのは違うレジャーです)
んで、日本酒が飲みたい気分でしたので、それなりの品ぞろえがあるお店をなんとなく決めて、ふらっと入店しました。

おっ、仙禽があるぞ、と思って注文したりして。
まったり呑みながら過ごします。

お酒無くなったんで、店主らしきお兄さんに注文しようとしたら、なんかわたしの手元を見てらっしゃるんですよ。「???」ちょっと気になったですけど、些細なことなので流していたら。

なぜか次のタイミングで「お客様、良かったら、メニューにないお酒があるんですけどお飲みになりますか?」って聞いてくれて。えっ、いいんですか、ってさっそく隠し酒を注文させてもらいました。

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新政のNo.6ですね。
生産量が少なくて置いてあるお店が少ない、いわゆる希少酒です。
わたしはわたしで、飲み歩いてますんで飲んだことはありますが、でも狙わないと飲めないお酒なので、けっこう嬉しい。

美味しくいただきつつも、あれあれ、なんで初めてのお店で、こんなによいサービスを受けられるんだろうと思っていたら、店主さんがまた話しかけてくる。
「その手ぬぐい、神奈川県酒造組合のやつですよね!」て。

あ、そうだ! とわたし。
手元を見ると、そうです。神奈川県の日本酒ブランドのロゴがプリントされてる手ぬぐいです。
きき酒選手権に挑戦した時に、参加賞としてもらったやつです。

それを、たまたま、持っていたんです。

店主さんがわたしの手元を見ていたのは、この手ぬぐいを見ていたんですね。わたしが注文してきたお酒の種類と併せて「コイツは日本酒ファンだぞ」と認識したんでしょう。
それで、わかるやつに出すお酒を出してくれたんです。

そうしようと思ってそうしたわけじゃない

でも、わたしは、たまたまこの手拭いを持って家を出たわけで。その時に、こいつを持ってるといいお酒が飲めるから持って行こうとしたわけじゃないんですよ(笑)。
なんも考えずに、ただ手にしただけなんです。
他にたくさん手ぬぐい持ってるのに。なぜか、その日に限ってそれを手にした。
だからいいお酒飲めた。

これって、すごいことです。
わたしの無意識が、わたしに手拭いを持参させたんですよ。

すでに至っていた、というのはこういうことかな、と。たまたま手拭い持ってたからいいお酒が飲めただけの話ではないんですよ、これは(笑)
自分が好ましいと思う展開へと、無意識に動いていたってことなんですよ。

これ、最強じゃないすか。

わたし自身が意識的な努力は何もしてないのに、無意識さんがやってくれるんすよ。
無意識さんスゴいです。

けっこう人間て、自分で自分の運を操作してやろう、みたいなところあるんですけども。無意識を信頼してゆだねれば、けっこう行きたい方へ自分をもっていけると思うんですよね。

無意識に動いてもらうには、それなりの準備が必要

ここで中国の故事「鶏鳴狗盗」の話をしようと思います。辞書ではこんな風に書いてあります。

けいめい-くとう【鶏鳴狗盗】

小策を弄ろうする人や、くだらない技能をもつ人、つまらないことしかできない人のたとえ。また、つまらないことでも何かの役に立つことがあるたとえ。▽「鶏鳴」は鶏の鳴きまねをすること。「狗盗」は犬のようにこそこそと、わずかばかりの物を盗むこと。卑しいことをして人をあざむく者のたとえ。

三省堂 新明解四字熟語辞典

なんか良くない意味でつかわれることの方が多いみたいですが、注目はココ。“つまらないことでも何かの役に立つことがあるたとえ”です。このエピソードをちゃんと紹介しましょう。

中国戦国時代、斉の孟嘗君(もうしょうくん)という人がいました。この孟嘗君は懐が広い人で、一芸があるいろんな人たちを食客として迎え入れてたんですね。その数数千人と言われていますが、まあ数はさておき(笑)、たくさんのワケわからん人たちを従えていたわけです。

で、ワケわからん食客集団のことが噂になり、孟嘗君は人望が厚い人物のようだというので、秦王がうちの宰相にならないかと招いてくれた。それで孟嘗君が秦まで訪ねたら、なんと秦王は心変わりして。「やっぱりコイツ斉の人間だしスパイになりそうだから、雇うのやめて殺しちゃおう!」ってなってしまったんですね。

で、孟嘗君は屋敷の中に幽閉されてしまいます。
殺されるわけにいかないし脱出しようと、彼は秦王の寵姫になんとか逃がしてくれませんかと頼みます。すると寵姫は孟嘗君が持参してきた“白ギツネの毛皮”をくれたら、秦王に逃がしてやるよう進言してやると言うわけです。

「うーん、でも、毛皮はすでに秦王に献上しちゃったしなあ」と孟嘗君が思っていたら、食客の中から、犬のように盗みがうまい奴が進み出て「わたしが盗んできましょう」と。そこで、うまく盗んできてくれるわけです。
それでなんとか孟嘗君は釈放されたわけですが、いつ秦王が追いかけてくるか分からない。慌てて斉に逃げ帰ろうとしたら、次に立ちはだかるのが、函谷関です。

函谷関は、漫画「キングダム」を読んでたりするとご存知かと思いますが、難攻不落の砦ですね。関所です。
孟嘗君一行がここを通ろうとしたら、まだ夜明け前で開いてなかった。朝になって鶏が鳴かないと関所は絶対に開けないことになっていた。
さっそく秦王が追手を放ったという知らせも届いて。これ、どうする? となった時に、
また食客の中から別のやつが進み出て「わたしが鶏の鳴きまねをして、なんとかしましょう」と言います。

そしてそいつが、鶏の鳴きまねを披露したら、他の鶏もつられて鳴き始めて。函谷関の役人が、関所を開けてくれて。孟嘗君は無事に、斉まで帰ることができました。

たまたま、盗みが上手い奴と、鶏の物まねがうまい奴を連れていたので、助かったという話なんですよ。

備えようとして備えるのではなく、既知ではないものをそばに置く

この「鶏鳴狗盗」の話、わたしは以前からすごく好きで。
わたしが最初にした、手ぬぐいをたまたまもっていたので良い酒が飲めた話と通じるものがあることは分かっていただけるかと思います。

孟嘗君は、秦王に捕まることを予想して、盗みが上手い奴と鶏の物まねが上手い奴を雇っていたわけではないんですよ。何となく「こいつら面白いから」とか「こいつら、なんだかワケわからんから」みたいな理由で雇ってただけなんですよ。たぶんね。
だって、もし食客を選別してたら。剣を使わせたら敵無しとか、本の内容をまるごと一冊覚えてられるとか、そういう“役に立ちそう”な人しかいないはずですもん。物まねが上手い人が食客になる余地ないです。
孟嘗君が、その人が役に立ちそうかどうか、で判断していないことは明確です。

役に立つものではなくて、自分が知らないもの、既知でないもの、自分から遠いものを、近くに置いたんですね。
これが、無意識にうまく動いてもらうための極意だと思います。

わたしは、良い酒が飲めた日。帰り道をほろ酔いでいい気分で歩きながら、これ鶏鳴狗盗じゃん!て思いました。人生の伏線を回収した、みたいなもんですね。

みなさんも、知らないものを恐れず、ちょっとだけでも、近くに置いた方が開運しますよ(笑)。

最後に、これをテーマにして書いたコラムを張り付けておきます。

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